大判写真の撮影手順

これから説明する手順は私がいつも「Linhof MASTER TECHNIKA 2000」でやっている手順で、必ずしもこの手順が合理的でかつ正しい手順であるかどうかは解りませんのであくまで参考として見て下さい。

ロケーションの見極め
大判カメラで撮影するには一般的な35oカメラとは違いやや広い撮影場所の確保が必要になります。
慣れれば三脚と自分の立つスペースがあれば十分に撮影準備から撮影まで手際良くできるようになると思いますが、レンズをカメラに取り付けたり絞りやシッタースピードの設定の時にカメラの斜め前方に立つ事が多く、又フィルムの置く場所など始めのうちは広めに確保しておいた方が良いでしょう。
又、単焦点レンズを使う為、プリント時にトリミングを前提にして若干広角のレンズを使用する事を考慮に入れ撮影場所を決めます。

三脚を立てる
三脚の使い方は35oや中判より更に慎重になります。
又、特にカメラ自体の重量増加、風の影響で転倒を防止する為や、後でのフレーミングの修正の時によけいな動作をしない為にも真直ぐ立てるように心がけると良いでしょう。
              
地面が硬いコンクリートや石の上に3脚とも設置してしまうと石突がゴムなどの柔らかい材質でできている物は、返って振動が出やすくなるようです、土の地面にわずかに沈む程度にした方が良いようです。

又、脚は太い方を優先的に使用すると一般的に言われていますが、カメラの重量にも因ると思いますが私の使用している三脚では細い方だけを使用してもほとんど差は感じませんでした、細い方のみを使用してカメラブレをおこすような三脚は、そのカメラに合わないと思っても間違えないでしょう。
よく先々のことを考えて少し大きめの三脚を購入を勧めている人がいますが、三脚の役割を考えるとカメラシステムに合ったものを選ぶのが一番確実のように思います。
35_システムの三脚を選んでいるにもかかわらず、中判もしくは大判まで使う事ができるなどの歌い文句にシステムの必要以上の三脚を選んでしまっている人をよく目にします。
標準焦点距離から広角焦点しか使わないにもかかわらずでかくて重い三脚を持ち歩いている光景は正にトラックの荷台に小さなダンボール箱一つを運んでいるようで滑稽に見えます。
大判以外のカメラシステムを使用する場合は、最低使用システムに無理の無い三脚を複数そろえる必要が有ると考えます。

雪面上に三脚をセットするときが一番気を使います。
スノーシューなどが市販されていますが、ある程度でしか効果は無く特に新雪が深い所では全く役に立ちません。
めんどくさらず、三脚を立てる所の雪をしっかり踏み固めておく事が重要です。

カメラを雲台に取り付ける
カメラをバックやザックなどから出す時は、手を滑らせたりして落下させないようにカメラに付いている皮やナイロンでできたバンドを持ち、雲台を横に傾けカメラの取り付け穴が見やすい位置にしてしっかりとカメラにネジを締め付けて取り付けます。
その時、三脚のがた等も一緒に確認して、もし足場が不安定でガタや撓みが出るようでしたら位置を修正して安定させます。
カメラの取り付けが完了したら、水準器などを使用してカメラの水平を出しておく。

35_や中判の場合、よくクイックシューを使っている人がいますが、大判の場合現在最もしっかり固定できると言われているリンホフのクイックシューでも、カメラ側とクイックシューの接合部に多少のたわみが発生する為一度きり使用しただけで使っていません。
                                  

カメラを組み立てる
カメラが三脚にセットできたら自分に対して横向きにカメラを向け、蓋を開けて前枠部を蓋に付いているレールに引っ張り出します。
使用する焦点距離のレンズを取り出しカメラに取り付けます。
その時、カメラが被写体の方を向いていると三脚の脚が邪魔になり不安定な姿勢になったりしてレンズを落下させたり三脚の脚に足を引っ掛けたりしてしまいますので、カメラを横向きにしてレンズを取り付けたほうがぶなんでしょう。
レンズに付いているシャッターにレリーズケーブルを取り付け、プレスフォーカスノブを動かしシャッター羽を開放にし、絞りを開放にします。
                        
カメラを被写体の方に向けます。
ピントグラスにピントフードが付いているカメラはフードを開けるとピントグラスに被写体が上下左右逆さまに写っているのが見えます。
                      

被写体にピントを合わせる
イメージする構図にカメラの向きを合わせたら、ピントグラスに写った像を見ながらある程度のピントを決めます。
ここで問題になるのが、前枠部をカメラを組み立てた時に、どれぐらいの所まで引き出しておけば良いのか ? 当然の事ながら使用レンズが∞でピントが合う位置より多く引き出してしまえば遠方にピントを合わせる事は困難になり、逆に∞よりはるかに短く出しておくと近くの被写体にピントを合わせるのにレンズの繰り出し量が増えレールが必要以上に長くなりバランスの悪い事になります。

ほとんどのフィールドカメラにはインフィニティストッパーと呼ばれるレンズを引き出す時のめあすになるストッパーが付いていたり、オプションで出ています。
そのストッパーをレールを全く繰出さない状態で各レンズの∞でピントが合う所に固定して、レンズの引き出し位置のめあすにする事ができます。
インフィニティストッパーが無いときは、カメラのレールに印を付けておくだけでも目安になります。
構図とある程度のピントを合わせたら、主体となる被写体にピントルーペを使いしっかりとピントを合わせます。
カメラのピントグラスにフードが付いているタイプはこの時、フードを取り外したり開けたりした方がスムーズにルーペをピントグラス上を滑らせる事ができます。
又、フードを付けたままでも使いやすい長いピントルーペも有りますが、ピントグラスの隅のピントが合わせずらくなりますので私は全体の構図を決める時以外はフードは開けています。

普通のカメラではこれで被写界深度を考慮に入れた絞り値をセットして露出計から得られたシャッタースピードをセットする訳ですが、大判写真の場合は前のページの表-1でもお解かりのように被写界深度が浅くなり絞りを絞っただけでは思うようなイメージにはなりません。
例えば近景から遠景までピントの合った写真を撮りたいときなど(パンフォーカス)、アオリを持たないカメラの場合は近景から遠景までの中間の手前から1/3にピントを合わせ絞りを絞り込んで近景から遠景までピントが合っているかの様に見せますが、焦点距離の長い大判の場合は絞りだけではカバーできません。
そこでアオリの出番となります、近景から遠景までピントを合わせるには先ず「シャインフリュークの法則」を理解しておく事が必要です。

通常ピント面のコントロールはフロント(レンズ側)アオリで行ないますが、それにはレンズのイメージサークルがアオリ量に対応してなければなりません、イメージサークルの小さなレンズ(テレタイプなど)を使用する場合ケラレを防ぐ為にバック部のアオリを使用します。
フロント部のアオリとバック部のアオリの違いについてはアオリの種類のページで説明したとおりですが、比較的アオリの量と操作が少なくてすむやり方を説明します。

はじめにバック部(ピントグラス)とフロント部(レンズ)が平行の状態で被写体のにピントを合わせます。
ピントグラスに写っている近景側はピントが合わずボケて見えます、そこで近景側バック部を手前にティルト(手前に倒す)すると近景側までピントが合うようになります。
もう一度景側をピントルーペで確認するとピントがずれているはずです。
もう一度遠景側のピントをフォーカシングノブを回して合わせなおします。
ここで重要になるのが、遠景側のピントを合わせる時にレンズ部を繰り出して合わせたのか、引っ込めて合わせたのかです。
レンズを繰り出して合わせたのならばバック部のティルト量が足りない事になり、更に近景側バック部を手前にティルトします。
その逆にレンズ部を引っ込めて合わせたのならばバック部のティルト量が多すぎた事になりティルトを戻してやればよい事になります。
遠景側はフォーカシングノブを回して合わせ、近景側は
バック部のティルト量で合わせる。
これら一連の操作を2回〜3回繰り返せば近景から景までピントが来るパンホーカスが完成します。

尚、バック部でティルト又はスイングアオリをした場合、被写体の形が変形したりパースペクティブのコントロールができますが、これが悪影響を及ぼしたりしますのでフロント部のライズ又はフォールなどのリカバリーのアオリが必要になることも有ります。
このアオリの操作はカメラのアオリのタイプにもよって違ってきます。

上記の手順はバック部がベースアオリの場合で、バック部がセンターアオリの場合は、ピントグラス中央部にピントを合わせた後バック部の近景側を手前にティルトして近景と中央と遠景にピントを合わせます。
どちらのタイプも一回のアオリ操作では近景と遠景にピントを合わせることは難しい為、ティルトして近景にピントを合わせた後、中央、遠景のピントを調整する事になります。
この時も、遠景にピントを合わせるのはベースのレールの繰り出し量で合わせ、近景はティルトの角度で合わせます。
この動作を2〜3回繰り返せばパンフォーカスが完成できます。

                          
センターアオリの場合でも、アオリ軸がピントグラス面意外にある場合は、ベースアオリと同じような操作になります。
カメラに対して縦方向も横方向も同じ手順でアオリでピントを合わせる事になります。
又、バックティルトせずに近景と遠景にピントを合わせる事もできます。
レンズを近景側(下)に向けていきながら近景と遠景にピントを合わせ、フロントをライズする。
このアオリは山岳写真でしばしば使われ、遠景に高い山が有る場合フロントをライズすることにより、それらが立ち上がったように写り込ませる事ができ山の高さの表現ができたり自分のイメージに合った表現をすることができます。
                           
ピントルーペを使用してピントグラスに写った像のピント合わせを行う場合、光軸付近では比較的ピントグラスに対して垂直に光が入りルーペをピントグラスに垂直に置いても明るくて見やすいですが、光軸から離れれば離れるほどレンズを通った光はピントグラスに対して斜めに入ることになり暗くなります。
これはレンズの焦点距離が短くなればなるほど大きくなりますので、光軸から離れた所のピントを合わせる場合は、ルーペをレンズの中心に傾けながら覗くと明るくなります。
当然ルーペの焦点調整がずれる為に、ルーペのフードを外してピントグラスからルーペを浮かして焦点調整をしたり、ルーペの焦点調整をしなおす必要がでますがめんどくさがらずしっかりとピントグラスの隅々までピントの確認をします。
                           
全てのアオリ操作とピント合わせが完了したら全てのロックを一旦締める。
レンズ、アオリの量や絞り値にもよるが、大判レンズの場合、絞りを絞り込むと焦点移動が発生する物が多く、その為、実際に撮影するときの絞り値まで絞りを絞ってピントルーペを使いピントの確認をし、必要であればピントを合わせなおします。
プレスフォーカスノブを動かしてシャッター羽を閉じる、これでピント合わせが完了。

                                                   

inserted by FC2 system