さて、測光にはいりますが、その前にもう一つ準備しなければならない物がありました、18%グレースケール。
この18%グレーをすでにイメージとして思い浮かべる事のできる人は必要ないかもしれませんが、そうでない人は必ず必要になります。
前頁でも説明しましたが、反射光式露出計の場合何所を測光しても18%グレーになる値を表示する訳ですから、その基準が解らなければなりません。
又、始めのうちはその基準からどのくらいの補正をするのかを解りやすくする為に、1/3もしくは1/2絞りづつのゲージを前もって作っておくと解り易いと思います(ゾーンスケール)。
Ansel Adams と言う名前をご存知でしょうか ? 白黒写真をやっている人は一度や二度は聞き覚えのある名前と思いますが、Frederick Archerとによって1941年に考案された「ゾーンシステム」を参考にゲージを作ります。
これから説明するゲージは白黒ですがカラーになっても階調は等しいので問題なく使用できます。
まず、マニュアル露出ができる一眼レフカメラに実際の撮影に使用する35oリバーサルフィルムを入れ、18%グレースケールをムラなく照明します。
ファインダー全面に18%グレーカードが入るようにカメラをセットしたら、実際に使用する反射光式単体露出計で測光したカットを中心に前後1/3絞りづつ段階露光で±5段絞り撮影します。
撮影完了したフィルムを現像に出す時にノーカットスリーブのベタ焼きプリントを依頼します。
FUJIFILMのビュープリントを現像時に合わせて注文すれば簡単です。
現像依頼する時に必ず、ゾーンシステムを作る事を告げて下さい。
何も写っていないからプリントしなかったと現像のみで仕上げられてしまう恐れがあります。
出来上がったプリントを18%グレースケールと見比べながら同じ階調のカットを「0」とします。
0を中心に+側は真っ白に写っているカットまでと、−側は真っ黒に写っているカットまでを切り離し、0を中心に+と−を並べれば真っ白から徐々に黒くなり最後は真っ黒という順に並べます。
撮影時に1/3絞りづつ撮ると、1カットが1/3絞りずつの連続したカットとなります。

             


反射光式露出計で測光して出た露出値はこのゲージの±0と同じ階調になることになります。
測光した場所を18%グレーより明るくもしくは暗く写したい時は、このゲージのどの位置と同じ階調にしたいのかを選びそのカットの数字分補正をかければよい訳です。
しかし、この方法も絶対とは言い切れず、条件によってはずれが生じますが一つのめあすにはなると思います。

ここでよく誤解をされる方がみえます。
一部の書物やWebサイトなどでは、18%グレーに対して間違った解説をしているものもあり大きな落とし穴になりますので正しく理解してください。
上の写真でもお解かりのように、18%グレーは真っ白と真っ黒の中間ではないと言う事です。
画角の中の一番暗い部分と一番明るい部分を測光して平均値で露出を決めるなどと説明されているのは間違えであり、これらの事を理解していない限り思い通りの表現する事は不可能です。
そして、上の写真ではプリントしたゲージを使用している為、ラチチュードが約5EVになりますが、これはプリント時の場合でボジフィルムで見ると実際には7EV以上のラチチュードがあります。
もし、ポジフィルムが写真の完成であるのならば当然ポジフィルム(7EV)でのゲージが必要になります。

あともう一つ、レンズに使用されているF値は絶対値ではありません。
F値は F=焦点距離/レンズの有効口径でありレンズの焦点距離と有効口径の比率にしか過ぎません。
例え同じ焦点距離で有効口径が同じレンでも、使用されているレンズの枚数などで最大2%前後の差が出るそうです。
試しに一眼レフカメラのマニュアル機能を使って、レンズ枚数の少ない単焦点レンズとレンズ枚数の多いズームレンズとで同じF値とシャッタースピードで撮り比べるとその違いが分かります。
このような透過率の差を勘案したレンズの明るさはT値と表記される事が多くあります。
スチール写真ではあまり一般的ではありませんが、ムービーでは一般的に使われたりするそうです。


あと、前のページでも触れましたが、単体露出計はメーカーによって1/3ほどの誤差があります。
自分が使用する単体露出計と18%グレースケールとの差を現像したポジフィルムで確認するとより制度が増します。
又、現像したスリーブを見て、±0で撮ったカットが18%グレーになっているかどうかも確認してください。
単体露出計によっては1/3前後のずれがあります。

 前置きが長くなりましたが、私が実際にどうスポット測光を使っているのかを紹介します。
私は大判で撮影する場合は衝動的な撮影はしません、と言うよりできません。
理由は「腕が無い」「のろま」「頭の回転が鈍い」どれも当たっていますが、長年山を登り続けているとその山の特徴を一番表現している場所というのがどの山にもあります。
その山の歴史や、実際登って体で感じた感触、登った時の思い出など、自分にとってその山を一番表現できるポイントはどこの山にも一箇所もしくは二箇所ぐらいしかないと感じているからです。

天候や季節、時間や山の状態を考慮して撮影ポイントに向かいます。
はじめにこれから写そうとする被写体をじっくり観察して、今自分の目の前に広がる風景の何所に引かれて、もしくは、この風景の何を表現したいのかをしっかり意識します。
そうする事により構図や測光する場所などは自然に決まってきます。

カメラのセッティングをして構図やピント、絞り値などが決まったならば、単体露出計で自分が一番表現したい場所を測光します。
スポット測光するポイントは通常一箇所ではなく数箇所になります。
下の絵は、10月初旬の剣御前からの剣岳を切り取ったものです。
この日は昨夜まで厚いガスに覆われ、2日間雨と霙の大変荒れた天候がつづき、剣を見ることができませんでしたが明け方にはガスもすっかり取れ、薄っすらと岩肌に雪を付けてました。、
夏場のこの山も、非常に荒々しい顔をしていますが、ほんの少しだけ雪を付けただけでその迫力は倍増します。
剣岳本俸を「主」八ツ峰を「副」にしての構図なので、測光は「主」である剣岳本俸を中心にするのがセオリーだが、八ツ峰の立ちふさがる荒々しさも剣岳の代表的な顔の一つの為、その険しさも表現する為に「副」の測光値も考慮しなければならないと考えた。

                      

下の二つの絵は、左側が「主」と、右側が「副」の測光箇所を示したもので、左右の1露出の基準になる18%グレーに最も近いと思うところを測光しています。
通常はこの位置の測光のみで見た目に近い露出値が出ますが、さらに岩肌に付いた雪や氷の質感や、日陰になっていてそのままでは黒くつぶされてしまいそうな部分の質感をも表現したい場合は、2の最も黒くつぶされる所と、雪の質感を残しておきたい所を測光しておきます。
さらに這松帯の質感も重要に思い、4這松帯の中間色にも測光をしました。
剣岳は上層部のほとんどが岩肌で被われているが、中層部〜下層部にかけてはいまつ滞が増えていきその表現も重要と考えたからです。
各測光ポイントで得られた測定値を元に、上で作っておいたゾーンスケールと見比べながら露出値を決定します。
例えば、同じ絞り値で1を測光した露出値と2の値と3の値をみてみると、3が最も明るくなるのでシャッタースピードも速くなります。
それに対して、2は最も遅くなりますね、その平均値が1の値には必ずしもなりません。
ですから、1だけの測光値だけで露出を決定してしまうと、自分がイメージする物より明るくなったり、暗くなったりして質感が損なわれてしまうわけです。

  
  

各ポイントで得られた値をゾーンスケールと照らし合わせながら、このポイントはどのくらいの濃度で表現したらよいのかを割り出し、出た4箇所の値を見ながら最終的な露出値を決定すれば、自分が画いたイメージどおりの露出を得る事ができるはずです。
なれないうちは、露出を大きく外す事はありませんが、なかなかイメージどおりの露出値を選び出す事ができません。
しかし、何度も撮影していくうちに突然、信じられないほど露出が読めるようになり自分がイメージした物が写す事ができるようになります。
機械任せで撮った物と、自分がイメージして自分オリジナルの露出値で撮った物を見比べた時、最高の満足感を得る事ができるはずです。

  
 

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